何が起きたか:6月に追加された「生成AI」データの評価が反転しはじめた
記事の見出しは「Google’s ‘Generative AI’ Search Console Data Is A Trap For Marketers(Googleの『生成AI』Search Consoleデータはマーケターにとっての罠である)」。リード文には、GSCのAI Overviews表示回数はクリックを示さず、AI Overviews内のあらゆるリンクを1位として扱い、平均順位を歪め、その結果として実際のトラフィックと売上の下落を覆い隠す、という要約が置かれています。
前提となる事実関係は次のとおりです。Googleは2026年6月の頭にSearch Console内の新しいレポート機能を発表し、AI Overviewsの回答ボックスとAI Modeのパネルをまたいで獲得した表示回数をサイト運営者に提供しました。原文はこれを、当初はおおむねオーガニック検索計測の大きな勝利として歓迎され、検索チームはAIインターフェース内でのユーザー行動が明確に見えるようになったと考えた、と振り返っています。
そのうえで、新データと付き合っておよそ8週間が経過した現在、規模の大きな運用ではこのデータセットがいかに限定的で、いかに誤った前提を招きうるかが見え始めた、と述べます。エンタープライズ企業はこれらの数字を基準に予算を計画するのだから、より詳しく見て、データセット内部の厳しい制約を認めるべきだ、というのが本論の出発点です。
限界1:クリックの経済価値が付いてこない
1つめの限界として挙げられるのは、GSCが表示(プレゼンス)の指標だけを表示し、クリック数もクエリの詳細も出さないことです。原文はこの点について、生成的な検索サマリーが検索結果ページ上でユーザーの意図を満たしてしまうためだと説明しています。
検索者はサマリーの文面を読み、必要な事実を見つけ、外部のウェブリンクをクリックせずに検索エンジンから離脱する。クリックを伴わない表示回数は、事業にとって経済的な価値を届けません。ここから原文は、GSCの表示回数の伸びを追いかけているマーケティングチームは、ドメインへのトラフィック、営業リード、コンバージョンのパイプラインが崩れていることを見えなくしてしまう危険があると警告します。「エンゲージメントを伴わない可視性は、成功の偽の指標をつくる」という言い方です。
なお原文は、この限界がほぼ即座にSearch Engine Journalの別記事で取り上げられていたことにも触れ、新しいレポートダッシュボードの主要な欠陥を指摘したものだと位置づけています。つまり、6月の時点で懸念自体は共有されていたが、8週間の実運用を経て問題の輪郭がはっきりしたという流れです。
限界2:AI Overviews内のリンクは全部「1位」になる
2つめは順位の歪みです。原文は、AI検索要素については単一ポジションのルールがGoogleのドキュメントで確認されていると述べます。AI Overviewsのブロックが検索結果の最上部に位置する場合、そのブロック内のすべてのURLはGSCで1位を受け取る。これが順位の歪みだ、というわけです。
問題は、その1位が視認性の実態とまったく対応しないことです。原文は、展開式のメニュー(アコーディオン)の内側に置かれたリンクが、主要な引用と並んで最上位の順位指標を受け取ると指摘します。二次的な参照先として並んでいるURLが、目立つ見出しスニペットと同じ順位指標を得る。マーケターは、実際のユーザーへの露出ではなく構造上のルールによって歪められた数値を根拠に、順位のパフォーマンスを判断していることになります。
この単一ポジション・ルールは、大規模なエンタープライズのドメインでも小さなコンテンツブログでも、同じように順位を膨らませます。原文の表現では、アコーディオンメニューの奥に埋まったリンクが、平均的な検索者からの視覚的な露出をまったく得ていないにもかかわらず最高点を受け取る、ということになります。
限界3:平均順位という「中心傾向」が下落を隠す
3つめは平均順位(average position)への依存です。原文は、GSCが平均順位を中心傾向(central tendency)の指標として計算していると説明します。この数学的な平均は、通常のオーガニック検索順位とAI Overviews上の出現を、ひとつの合成値に集約してしまいます。著者は平均順位が以前から自分の不満の種であったと書き、今回のAI Overviewsレポートのスタイルがさらに混乱を増やしていると述べています。
原文が挙げる計算例は具体的です。あるURLが同じ検索結果ページ上で、AI Overviewsブロック内では1位に、通常のオーガニックでは4位に出ているとき、GSCは平均順位2.5と記録します。2.5という平均順位は、1ページ目での大きな勝利のように見える。しかし実際には、4位にいる従来型のリンクが訪問トラフィックのすべてを動かしています。中心傾向の指標は異なるSERP機能を混ぜ合わせ、順位の下落を隠す。そして企業は、そのまま次の問題へ夢遊病のように歩いていくことになる、と原文は書きます。
より一般化した表現として、原文は「中心傾向の計算式は、AI Overviews内の1位と、通常のオーガニック結果の1位を等価として扱う」と述べ、この近道が時系列でのパフォーマンス傾向を歪めると結論づけています。
原文が示す対応策:指標そのものを組み替える
最終章のタイトルは「What We Need To Do(私たちがすべきこと)」です。原文は、SEOチームがこの構造変化を生き延びるには計測モデルを適応させなければならないとし、具体的に次の方向を挙げています。
- 企業はGSCの表示回数よりも、オーガニック経由の売上、リード件数、ブランドの引用(brand citations)を優先すること。
- ファーストパーティ分析ツールが、GSCのクリック率平均への依存を置き換えなければならないこと。
- デジタルチームは平均順位を中核KPIとして使うのをやめ、中央値(median position)の指標を採用し、実際の訪問者コンバージョンを測ること。
- ステークホルダーに対しても、この指標から離れるよう、少なくともこれまでのような解釈をしてはいけないという理解を教育すること。
4点目は見落とされやすい論点です。指標を切り替えても、経営層や事業側が従来の読み方のまま数字を受け取れば、判断は変わりません。原文が「教育」という語を使っているのは、ダッシュボードの改修だけでは足りないという意味に読めます。
実務への影響と、今日からできる確認手順
原文が示している範囲で、手を動かせるところを整理します。まず、レポート上の数字を「クリックを伴う指標」と「表示だけの指標」に分けることです。AI Overviews・AI Modeの表示回数は後者であり、原文の整理ではクリック数もクエリの詳細も付いてきません。同じ表の中に並べたまま前月比を語ると、伸びの中身が読めなくなります。
次に、順位系の指標です。原文が挙げる打ち手は明確で、平均順位を中核KPIから外し、中央値を採るというものです。AI Overviews内のリンクが一律1位で入ってくる以上、平均は構造的に良く見える方向へ寄ります。
- AI Overviews・AI Modeの表示回数を、クリックや売上と同じダッシュボードの同じ行に混ぜない。原文の指摘では、表示回数の伸びがトラフィックとリードの崩壊を覆い隠しうるためです。
- 平均順位を中核KPIから外し、中央値ベースの順位指標に切り替える(原文が明示的に勧めている点です)。
- KPIの上位に、オーガニック経由の売上・リード件数・ブランドの引用を置く。
- クリック率の評価は、GSCの平均値ではなくファーストパーティ分析側で行う。
- 報告を受ける側にも、平均順位とAI Overviews表示回数の読み方を共有する。原文はステークホルダーへの教育を対応策の一部として挙げています。
※以下はScale Basics編集部による一般的な実務上の補足です。GSCの検索パフォーマンスは検索での見え方を知る一次データとして依然有用ですので、「使わない」ではなく「何の指標かを分けて使う」という整理が現実的です。社内レポートでは、表示回数の列に注記を添えておくだけでも解釈のぶれは小さくできます。
所感
ここからは記事本文にはない、Scale Basics編集部の見解です。この論考が刺しているのは、新しいデータが増えたときに必ず起きる問題だと考えます。手元に数字が来ると、まずその数字で語りたくなる。ところが今回追加されたのは「表示された回数」だけで、クリックもクエリも付いていません。指標として不完全なものが、完全な指標と同じ画面に並ぶ。ここで解釈のねじれが生まれます。
とくに実害が出やすいのは、平均順位の扱いだと見ています。原文が挙げた「AI Overviewsで1位、オーガニックで4位、よって平均2.5」という例は、レポート上ではむしろ改善として現れます。改善に見える数字が出ているあいだ、実際のトラフィック下落への対処は後回しになりがちです。中央値へ切り替えるという打ち手は地味ですが、少なくとも「構造的に良く見える」バイアスは外せます。
もう一点、原文が売上・リード・ブランドの引用をKPI上位に置くよう勧めていることは、SEOの報告が検索エンジン内の指標だけでは完結しなくなったという意味だと受け取っています。検索結果ページ上で意図が満たされる場面が増えるなら、事業成果まで含めて追わないと施策の当たり外れが判定できません。逆に言えば、そこまで追える体制があるチームにとっては、今回のデータの限界はさほど致命的ではないはずです。
まとめ
・Search Engine Journalが2026年7月30日付でDan Taylor氏(10 Spurs)の論考を掲載し、2026年6月頭にSearch Consoleへ追加されたAI Overviews・AI Modeの表示回数データには、規模の大きな運用で重大な限界があると指摘した
・限界の1つめはクリックの経済価値で、GSCは表示の指標だけを示しクリック数もクエリの詳細も出さないため、表示回数の伸びを追うとトラフィック・リード・コンバージョンの崩壊を覆い隠すおそれがある
・2つめは順位の歪みで、AI Overviewsのブロックが最上部にある場合はブロック内の全URLがGSCで1位を受け取り、展開式メニューの奥のリンクも主要な引用と同じ順位指標を得る
・3つめは平均順位で、AI Overviewsの1位と通常オーガニックの4位が平均2.5として記録されるなど、中心傾向の指標が異なるSERP機能を混ぜて順位下落を隠す
・対応策として原文は、GSCの表示回数よりオーガニック売上・リード件数・ブランドの引用を優先すること、ファーストパーティ分析でGSCのCTR平均への依存を置き換えること、平均順位を中核KPIから外して中央値を採ること、そしてステークホルダーの理解を更新することを挙げている
よくある質問
Q1: Search ConsoleのAI Overviews表示回数は、見なくてよいということですか?
原文はデータを見るなとは述べていません。指摘されているのは、このデータセットが表示(プレゼンス)の指標のみで、クリック数もクエリの詳細も伴わないという性質です。そのため、表示回数の伸びをそのまま成果として扱うと、トラフィックやリード、コンバージョンの下落が覆い隠されると警告しています。原文が勧める順序は、GSCの表示回数よりもオーガニック経由の売上、リード件数、ブランドの引用を優先することです。
Q2: なぜ平均順位ではなく中央値を使うべきなのですか?
原文の説明では、GSCの平均順位は中心傾向の指標であり、通常のオーガニック順位とAI Overviews上の出現をひとつの合成値に集約します。AI Overviewsのブロックが最上部にあると、そのブロック内のURLはすべて1位として記録されるため、たとえばAI Overviewsで1位・オーガニックで4位のURLは平均2.5になります。実際のトラフィックを動かしているのは4位のリンクであっても、数字は1ページ目での勝利のように見えてしまう。この歪みを避ける具体策として、原文は平均順位を中核KPIから外し中央値の指標を採用することを挙げています。
Q3: AI Overviews内のリンクが1位として記録されるのは、Googleが公式に認めている仕様ですか?
原文は、AI検索要素に単一ポジションのルールが適用されることがGoogleのドキュメントで確認されていると述べています。ブロックが検索結果の最上部にある場合、そのブロック内の各URLはGSCで1位を受け取ります。原文が問題視しているのは仕様の存在自体ではなく、展開式メニューの内側にあって平均的な検索者からは視覚的な露出をほとんど得ていないリンクまでもが、主要な引用と同じ最上位の順位指標を得るという点です。
出典:Google’s ‘Generative AI’ Search Console Data Is A Trap For Marketers(Search Engine Journal、Dan Taylor氏、2026年7月30日)https://www.searchenginejournal.com/googles-generative-ai-search-console-data-is-a-trap-for-marketers/584018/