何が起きたか:再生数は伸び、長尺動画の広告と推定収益は下がった
Search Engine Journalの記事(見出し:「YouTube Views Rose While Long-Form Ad Revenue Fell, Data Shows(YouTubeの再生数は伸びた一方で長尺動画の広告収益は下がった、とデータが示す)」)は、冒頭で次のように報じています。「長尺のYouTube動画の再生数はこの1年で大きく伸びた一方、それらに対して配信された広告は半減した(“Views on long-form YouTube videos rose sharply over the past year while the ads running against them fell by half”)」。出典はソーシャルメディア管理ツールであるMetricoolの新しいレポートです。
記事は要点として、1投稿あたりの長尺動画の再生数が伸びる一方で平均視聴時間(average view duration)は下がったこと、Metricoolが広告収益の低下を視聴時間の短縮とミッドロール広告(mid-roll)の機会減少に結び付けていること、そして再生数だけで1年を判断していたチャンネルであれば収益の低下を見逃していただろうこと、の3点を挙げています。
押さえておきたいのは、これがYouTubeやGoogleによる公式発表ではなく、1つのツールベンダーが自社プラットフォームに連携されたアカウントのデータを集計したレポートだという点です。記事も「Metricoolは、YouTubeのスケジューリングとレポーティングのツールを販売しており、このデータは同社のプラットフォームに連携されたアカウントから得られたものだ(“Metricool sells YouTube scheduling and reporting tools, and this data is sourced from accounts linked to its platform.”)」と明記しています。
調査の前提:799,718本・71,177アカウントを、2つの「2月」で比較
レポートの母集団は、記事によると世界の71,177アカウントから集めた799,718本の動画です。比較しているのは2025年2月のデータと2026年2月のデータで、掲載されている数値の大半は1投稿あたりの平均値(averages per post)だとされています。比較の単位が「年間の累計」ではなく「ある1か月と、その1年後の同じ1か月」である点は押さえておきたいところです。
また、収益に関する数値の対象は長尺動画に限られています。記事は「このレポートが収益化の数値を提示しているのは長尺動画についてのみである(“The report provides monetization figures for long-form video only.”)」としています。ショート動画を含めた全体像を示すものではありません。
数字で見る変化:各指標の増減
記事に掲載されている指標を、2025年2月と2026年2月で並べると次のようになります。いずれも記事に記載された数値をそのまま転記したものです。
| 指標 | 2025年2月 | 2026年2月 | 記事の記載 |
|---|---|---|---|
| 長尺動画の平均再生数 | 3,405 | 5,985 | 76%増 |
| 平均視聴時間(average view duration) | 3.98分 | 2.51分 | 37%減 |
| 1投稿あたりの推定視聴分数 | 記載なし | 記載なし | 11%増 |
| 再生あたりのインタラクション率 | 2.38% | 1.30% | 低下 |
| 1投稿あたりの総インタラクション数 | 81.14 | 77.93 | わずかに減少 |
| 1投稿あたりの広告インプレッション(ad impressions) | 976.32 | 475.07 | 減少 |
| 収益化された再生(monetized playbacks) | 576.41 | 237.92 | 減少 |
| 1投稿あたりの推定広告収益 | 2.65ドル | 1.20ドル | 減少 |
| 推定YouTube Premium収益 | 0.34ドル | 0.19ドル | 減少 |
まず視聴の側です。平均再生数が76%増えたのに対し平均視聴時間が37%下がった結果、1投稿あたりの推定視聴分数は11%増にとどまりました。記事は、セッションが短くなったにもかかわらず推定視聴分数がより多くの再生数のおかげで11%増えた、と説明しています。露出の量が増えた分だけ、1回あたりの深さが薄まった形です。
次にエンゲージメントです。再生あたりのインタラクション率は2.38%から1.30%へ下がりましたが、1投稿あたりの総インタラクション数は81.14から77.93へわずかに減っただけでした。記事は、この比率の低下はユーザーのインタラクションが減ったからではなく再生数がより大きくなったことによるものだと示している、と述べています。
そして収益側です。広告が実際に配信された再生を意味する収益化された再生(monetized playbacks)は576.41から237.92へ、広告インプレッションは976.32から475.07へ動いています。記事はこの区画を「お金の数字は逆方向に動いた(“The money figures went the other way.”)」という一文から書き起こしています。
Metricoolの説明と、このデータで断定できないこと
この落差についてMetricoolが示している説明は1つです。記事は「Metricoolはこれを視聴時間の低下に結び付け、1本の動画に費やされる時間が短くなるほど、ミッドロール広告を差し込む機会が減ると述べている」と伝えています。広告を挿し込める機会が視聴の長さに依存する以上、視聴が短くなれば広告の露出も減る、という筋道です。
ただし記事は、これを因果として確定させることには慎重です。「Metricoolは、この分岐が何によって引き起こされたのかを特定していない。同社のデータでは、YouTubeの広告システムの変化と、それぞれの期間に現れたアカウント・動画・視聴者の違いとを区別できない」としているためです。視聴時間の短縮は説明として提示されてはいるものの、原因が確定したわけではありません。
記事は、レポートが答えていない点も具体的に列挙しています。第一に、同じアカウントが両方の期間に含まれているかどうかが示されておらず、示されているのは2つの月だけであること。第二に、年ごとのアカウント数や動画本数が別々に示されていないため、アカウントの構成が変わっていれば平均値がそれだけで動き得ること。第三に、投稿がなかったアカウントや、インプレッションがゼロ・インタラクションがゼロの投稿は除外されている一方、外れ値の除去は行われていないこと。第四に、地域別のデータがないことです。
この4つめは金額の解釈に直接効きます。記事は「YouTubeは、広告主がどの地域をターゲットにするかを選ぶため、CPMは視聴者の地域によって変わると説明している」と指摘し、地域データの欠落がお金の数字にそのまま関わると述べています。加えてYouTubeのヘルプページには、広告主向けに適さない動画や、そもそも配信できる広告がなかった再生など、再生に広告が付かない理由が複数挙げられていること、CPMは利用可能な広告フォーマットの多様さと結び付いていること(レポートはこれを分解していない)にも触れています。
さらに記事は、レポートが収益化された再生・広告インプレッション・2種類の収益については定義を示しておらず、これらの平均値がどう組み立てられたのかが述べられていない、とも書いています。そのうえで「これをプラットフォーム全体の変化として解釈するのは、1つのツールのアカウントデータにおける別々の2つの2月に対して求めすぎかもしれない」と結んでいます。
それでも記事が意味があると位置づけているのは、次の点です。「このデータでは、再生数の上昇はもはや広告配信の上昇と連動していない。両者はこの1年で逆方向に動いた」。そして「その差は、レポート上の数字としての再生数の価値を変える。再生数だけに注目していたチャンネルは、広告配信が落ちていた期間に成長を記録していたことになる」としています。
実務への影響:「再生数」を成果指標に置くことの危うさ
ここから先は記事本文にない内容を含む、Scale Basics編集部による一般的な実務上の補足です。今回のレポートはMetricool連携アカウントという限られた母集団の平均値であり、自社チャンネルの実績とは別物です。指標設計の考え方として読んでください。
実務に持ち帰れるのは、金額の水準そのものよりも構造のほうだと考えます。同じ期間・同じ母集団の中で、露出を表す指標が増えているのに換金を表す指標は減る。そして、レポートで一方しか見ていなければその逆行に気付けない。検索での表示回数だけを見ていてクリックやコンバージョンの低下を見落とす、というSEOレポートの典型的な失敗と同じ構造です。
そこで提案したいのが、動画の成果を1つの数字で語らず、性質の違う3つの層に分けて必ずセットで出す指標設計です。露出の層(再生数・インプレッション)は届いた量を表しますが、質は表しません。深さの層(平均視聴時間・総視聴時間)は1回の接触がどれだけ続いたかを表します。成果の層は、広告収益で運営するチャンネルなら収益化された再生や推定収益、企業のコンテンツ施策ならサイト遷移・問い合わせ・指名検索といった事業側のKPIが該当します。今回のデータは、露出の層だけを見ると好調、深さの層を足すと評価が割れ、成果の層まで見ると別の結論になる、という典型例です。
広告収益を目的としない企業チャンネルでも、視聴時間の低下は無視できません。動画の後半に案内を置く設計であれば、平均視聴時間が短くなるほどその案内が届く割合は下がります。自社でも視聴が浅くなる傾向が見えるなら、伝えたい情報や導線を前半へ寄せる判断材料になります。
今日からできる確認手順
この章もScale Basics編集部による一般的な実務上の補足です。今回のレポートと同じ切り口を自社チャンネルに当て、同じ逆行が起きていないかを確認する手順として整理しました。
- 自社チャンネルのアナリティクスで直近1か月と前年同月を比較し、再生数・平均視聴時間・総視聴時間の3つを並べる。再生数だけが伸びて平均視聴時間が落ちていれば、今回のレポートと同じ形です。
- 収益化しているチャンネルなら、広告が配信された再生の数と推定収益を同じ期間・同じグラフに並べ、再生数の線と逆方向に動いていないかを確認する。
- 長尺動画とショート動画を分けて集計する。今回のレポートが収益の数値を示しているのは長尺動画のみで、両者を混ぜた平均は解釈が難しくなります。
- 視聴者の地域内訳を確認する。記事によればYouTubeは、広告主がターゲット地域を選ぶためCPMは視聴者の地域によって変わると説明しています。地域構成が変われば、再生数が同じでも収益は動き得ます。
- 社内レポートのフォーマットを見直し、露出・深さ・成果の3層が必ず同じページに並ぶようにする。欠けている層が、見落としの発生地点になります。
- 外部レポートの数値を引用する場合は、調査元・対象期間・母集団・除外条件を必ず併記する。
所感
ここからは記事本文にはない、Scale Basics編集部の見解です。今回のレポートで最も価値があるのは個々の金額ではなく、「1つの指標だけを追っていると、同じ期間に逆方向へ動いている別の指標を見落とす」という構造が実データの形で示された点だと考えます。記事自身が、再生数だけで1年を判断したチャンネルは収益の低下を見逃していただろうという一文を要点に置いているのは示唆的です。
一方で、この数値を業界のベンチマークとして扱うのは無理があります。Metricoolは自社でYouTubeのスケジューリングとレポーティングのツールを販売しており、データは同社に連携されたアカウント由来です。同一アカウントかどうかは示されず、年ごとのアカウント数や動画本数も分かれておらず、外れ値の除去も行われていません。記事がこれをプラットフォーム全体の変化と読むのは求めすぎかもしれないと書いているのは、妥当な留保だと感じます。
動画の成果報告が「再生数」の一言で済まされている現場は今も多いという印象がありますが、今回のような逆行が起きたとき、その報告フォーマットでは何も検知できません。推奨したいのは、このレポートの数値を自社の目標値に持ち込むことではなく、自社チャンネルで同じ比較を1度やってみることです。再生数・平均視聴時間・総視聴時間を前年同月で並べるだけなら工数はかかりませんし、そこで同じ逆行が見つかれば、外部レポートよりはるかに強い自前の一次データになります。
まとめ
・Metricoolの新しいYouTubeレポートで、長尺動画の平均再生数が3,405から5,985へ76%増えた一方、平均視聴時間は3.98分から2.51分へ37%下がったと、Search Engine Journal(Matt G. Southern氏、2026年7月29日付)が報じた
・収益側は逆方向で、広告インプレッションは976.32から475.07、収益化された再生は576.41から237.92、推定広告収益は2.65ドルから1.20ドル、推定YouTube Premium収益は0.34ドルから0.19ドルへ動いた(いずれも1投稿あたり)
・Metricoolはこの低下を視聴時間の短縮に結び付け、動画に費やされる時間が短いほどミッドロール広告を差し込む機会が減ると説明しているが、分岐の原因そのものは特定していない
・レポートは世界の71,177アカウント・799,718本を対象に2025年2月と2026年2月を比較したもので、同一アカウントかどうかの明示・年ごとの件数・地域データがなく、外れ値の除去も行われていない
・再生数の上昇が広告配信の上昇と連動しなくなった以上、再生数だけを見ていたチャンネルは広告配信が落ちていた期間に成長を記録していたことになる、というのが記事の示唆
よくある質問
Q1: このレポートは、YouTube全体で広告収益が下がったことを示しているのですか?
いいえ。記事によれば、Metricoolは今回の分岐が何によって引き起こされたのかを特定しておらず、同社のデータではYouTubeの広告システムの変化と、それぞれの期間に現れたアカウント・動画・視聴者の違いとを区別できないとされています。示されているのは2025年2月と2026年2月という2つの月だけで、同じアカウントが両方の期間に含まれているかも明示されていません。記事自身、これをプラットフォーム全体の変化として解釈するのは求めすぎかもしれない、と述べています。
Q2: 再生数が増えたのにインタラクション率が下がったのは、ユーザーの反応が悪くなったということですか?
記事の数値を読む限り、そう単純ではありません。再生あたりのインタラクション率は2.38%から1.30%へ下がっていますが、1投稿あたりの総インタラクション数は81.14から77.93へわずかに減っただけです。記事はこの点について、比率の低下はユーザーのインタラクションが減ったからではなく、再生数がより大きくなったことによるものだと示している、と説明しています。分母が膨らんだことによる希薄化であり、反応そのものが大きく失われたわけではない、という読み方になります。
Q3: 動画をコンテンツ施策に使っている企業は、どの指標を見ればよいですか?
記事には企業のコンテンツ施策向けの推奨は書かれていないため、以下はScale Basics編集部による一般的な実務上の補足です。動画の成果を1つの数字で語らず、露出の層(再生数やインプレッション)、深さの層(平均視聴時間や総視聴時間)、成果の層(広告収益で運営するなら収益化された再生や推定収益、企業チャンネルならサイト遷移・問い合わせ・指名検索などの事業KPI)の3つに分けて、同じレポートに並べることを推奨します。今回のデータのように露出だけが伸びて他の層が落ちる状況では、露出の指標だけを見ていると評価を誤ります。あわせて、外部レポートの平均値は自社の目標値ではなく仮説の出発点として扱い、判断は自社チャンネルの前年同月比で行うことをおすすめします。
出典:YouTube Views Rose While Long-Form Ad Revenue Fell, Data Shows(Search Engine Journal、Matt G. Southern氏、2026年7月29日)https://www.searchenginejournal.com/youtube-views-rose-while-long-form-ad-revenue-fell-data-shows/584040/