何が起きたか:AI検索需要の89.3%に「明確なオーナー」がいない
Search Engine Journalは2026年7月29日、「89% Of AI Search Demand Has No Clear Owner: Use This Before The Window Closes(AI検索需要の89%に明確なオーナーはいない――窓が閉じる前にこれを使え)」と題した記事を掲載しました。執筆はVIPコントリビューターのGreg Jarboe氏で、肩書はSEO-PRの社長兼共同創業者と紹介されています。記事のリード文は「1,094カテゴリにわたるデータは、トピカルオーソリティ(topical authority)がChatGPTでも通用することを示しているが、AI検索需要の89%は依然としてどのブランドも所有していないカテゴリに存在している」と要約しています。
記事によれば、この分析はAI Overviewsの登場以降くすぶってきた論点、すなわち「ブランドが幅ではなく深さを追うことを評価するトピカルオーソリティは、AI検索にも引き継がれるのか。それともChatGPTは十分に白紙の状態で、ジェネラリストのブランドがカテゴリを冷えた状態から奪い取れるのか」に決着をつけるものです。Indig氏の答えは「トピカルオーソリティはAI検索でも効く」で、その理由は持続性(durability)にあるとされています。あるブランドが一度カテゴリ内で突出した言及シェアを獲得すると、それを保持し続ける傾向があるからだ、という説明です。
ただし記事は、それは「きれいにまとめた版」であって、投稿の数段落先に埋もれた「より雑然としていて、より有用な版」は市場のほとんどがまだ決着していないという事実だ、と続けています。ここが見出しの89%の中身です。
データの出どころ:Semrushの6か月分ChatGPT回答データと5種類のプロンプト
記事によれば、Kevin Indig氏はSemrushから2026年1月から6月までの6か月分のChatGPT回答データへのアクセスを得ています。対象は米国の1,094カテゴリ、1カテゴリあたり5本のプロンプト、5万を超えるブランド、60万件を超える引用(citations)です。Indig氏はこの分析を自身のSubstackニュースレター「Growth Memo」で7月20日に公開し、同日にLinkedInで主要な発見を投稿したとされています。
1カテゴリあたり5本のプロンプトが何を指すのかも、記事の後半で明示されています。Jarboe氏は実務者向けの推奨の中で、Semrushが使ったのと同じ5つのプロンプトタイプとして「定義を尋ねる質問、比較、代替候補のリスト、ユースケース、購買に関する質問」を挙げています。ブランド名を単独で検索して言及数を数えるのではなく、質問の型を5通りに分けて横断的に見る設計です。記事によれば、ブランドがChatGPTの既定の回答になるのは、モデルがこの5つのバリエーションすべてに答えようとしたときに「学習と検索が繰り返し行き着く情報源」であることによる、とされています。
押さえておきたい前提が2つあります。1つは対象が米国のカテゴリであること、もう1つはAI検索需要が推定値(estimated AI search volume)として扱われていることです。記事はこの推定手法の詳細には触れていません。ツールが推定した需要量と、自社が実際にAIアシスタント経由で獲得している流入は別物である点は、切り離して読む必要があります。
「89%」の正確な意味:3区分の定義と、需要で重み付けしたときの逆転
この調査で最も誤読されやすいのが、89%という数字の母数です。結論から書くと、これはカテゴリ数の割合ではなく、推定AI検索需要の割合です。まずIndig氏は、カテゴリを3つのバケツに分類しています。記事に書かれている定義は次のとおりです。
明確なオーナー(clear owner)がいるカテゴリとは、1つのブランドが5本のテストプロンプトのうち少なくとも4本に登場し、かつ2位のブランドを5パーセントポイント以上引き離している状態を指します。
新興リーダー(emerging leader)がいるカテゴリとは、あるブランドが少なくとも3本のプロンプトで首位に立っているものの、上記の差には届いていない状態を指します。
未決着(unsettled)のカテゴリとは、それ以外のすべて、つまりどのブランドも5本中3本で首位を取れていない状態を指します。
この定義をデータセット全体に適用すると、2026年6月時点は大きく開いた状態に見える、と記事は述べています。明確なオーナーがいたカテゴリはわずか15.2%。そして「半分を少し超える53.7%」は、複数の有力な競合がいてどのブランドも扉を閉めるには至っていないオープンフィールドだったとされています。なお、3区分の残り(新興リーダー)の比率については記事内に明示がありません。
ここからが89%の導出です。Indig氏は1,094カテゴリすべてを推定AI検索ボリュームで並べ替え、上位と下位の2つの均等なグループに分割しました。すると、ボリュームの高い側の半分だけで、サンプル内の全AI検索需要の98%を占めていたとされています。需要は極端に上位カテゴリへ偏っているということです。
そのうえで、この高ボリューム側のオーナー率は11.3%にとどまり、低ボリューム側の19%を下回っていました。つまり「金額的に価値の高いカテゴリほど、決着していない」という逆転が起きています。この2つを積み上げた結果が、推定AI検索需要の89.3%が、まだ明確なオーナーのいないカテゴリの中にあるという数字です。記事はこれを「占有する価値が最も高いカテゴリが、いまのところ最も決まっていない」と表現しています。つまり89.3%は「カテゴリの89.3%」ではありません。カテゴリ数で見れば明確なオーナーがいるのは15.2%ですが、需要が集中する高ボリューム側ではオーナー率が11.3%まで落ちるため、需要で重み付けすると未所有の割合がさらに大きく出る、という構造です。
なおJarboe氏は自身の見解として、トピカルオーソリティが本物のアルゴリズム上の力なのか代理店がコンテンツカレンダーを正当化するための都合のよい物語なのかというSEO業界の議論をこの3年間見てきたが、Indig氏のデータはこの問いを実際の数字で解決した最初のものだ、と書いています。そのうえで、カテゴリへの集中を任意のものとして扱い続けているブランドは、5つのプロンプトタイプすべてに一貫して現れる労を取った者に9桁規模のカテゴリを譲り渡している、と述べています。
オーナーは強い、ただしリードが厚いときだけ:90.4%と1.3ポイントの境目
分析の後半では、いったん獲得したポジションがどれだけ持つのかが検証されています。Indig氏は同じカテゴリ群について前月比のリーダー交代を追跡し、明確なオーナーは比較対象のうち90.4%で首位を維持していたことを確認しました。一方で、交代が起きたケースはほぼ例外なく、もともとリードが薄かったカテゴリに集中していたとされています。具体的には、リーダーが交代したカテゴリの交代直前のリード幅は中央値で1.3パーセントポイント、維持したカテゴリの中央値はその倍以上の2.9パーセントポイントでした。
さらに記事は、成長トレンドだけを見てもほとんど何も分からなかったとIndig氏が述べている点を紹介しています。Indig氏は、首位のブランドが前月比で上昇トレンドにありながら追い抜かれた例を3件示しており、その理由は競合が単純により速く成長したか、わずかな差を詰めたからだと説明されています。記事はこれを「モメンタムが無意味だということではない。1ポイントや2ポイントのリードは、まだ守る価値のあるリードではないということだ。この範囲にいるブランドは、自分はまだ戦いの最中にいると想定すべきだ」とまとめています。
引用と言及は別物:相関-0.229という数字
もう1つ、GEO(生成エンジン最適化)の実務に直接効く発見が報告されています。記事によれば、引用(citations)とブランド言及(brand mentions)の関係は弱く、-0.229というわずかに負の相関にとどまりました。あるカテゴリで最も頻繁に引用されたドメインと、最も頻繁に言及されたブランドが一致したのは20.8%のケースだけです。ただし、最も言及されたブランドが少なくとも1回は引用されていた割合は69.9%でした。
Jarboe氏はこれを「たくさん引用されたからといって、自動的にChatGPTが既定で持ち出すブランドになるわけではない」と要約し、GEO戦略が「引用をもっと増やす」で始まり同じ場所で終わっている担当者にとって意味のある区別だと指摘しています。記事の後半では「引用はドアであって、部屋ではない(citations are a door, not the room)」という表現も使われています。
オーナーとその2位ブランドを比較したときの特徴についても数字が出ています。オーナー側は、ペアの55.7%でブランド検索ボリュームが高く、48.4%でオーガニックトラフィックが高く、52.5%でSemrushのAuthority Scoreが高い、という結果でした。ただしIndig氏はこれらを「公式」ではなく相関として慎重に扱うべきだとしており、記事も「ブランドはブランド検索ボリュームを買うことでChatGPTの既定の回答を獲得するわけではない」と明言しています。50%前後の数字が並んでいる以上、これらを打ち手のKPIに直結させるのは早計だと読むべき水準です。
実務への影響と、今日から自社で測れること
記事は、Jarboe氏自身が実務者に勧める次の四半期の作業として、Indig氏のフレームワークと同氏のCitation Share of Voice(引用シェア・オブ・ボイス)アプローチを組み合わせた3つのステップを挙げています。
- 戦場を先に決め、それから正しく測る。自社ブランドが既定の回答である必要が実際にあるカテゴリを10から20挙げる。それぞれについて、ブランド名を単独で追うのではなく、Semrushが使ったのと同じ5つのプロンプトタイプ(定義を尋ねる質問、比較、代替候補のリスト、ユースケース、購買に関する質問)を追跡する。
- 「勝っているかどうか」ではなく、リード幅で並べ替える。1.5ポイント差でリードしているカテゴリは、勝ったカテゴリではない。おおよそ3ポイント未満はすべて係争中として扱い、残りのプロンプトのギャップを埋めることに実際のリソースを投じる。Indig氏のデータでは、まさにその範囲で交代が起きているためです。
- 引用を追いかけることを戦略のすべてにするのをやめる。引用は回答セットに入るための手段として使い、そのうえで、部屋に入った後に実際に名指しされるブランドかどうかを決めるコンテンツタイプ、すなわち比較ページ、証拠となる実績、第三者による報道、明確なポジショニングへ予算を移す。
記事は締めくくりで、この窓は開いたままではないと述べています。需要の89%が未決着のカテゴリにある状態は異例なほど寛大なスタートダッシュであり、これをブックマークする1本のレポートとして扱うのではなく、次の数四半期で動くブランドが、2027年に同じ調査を誰かが走らせたときにも既定の回答であり続ける、という主張です。「窓が閉じる前に」という見出しの根拠は、オーナーが90.4%の確率で首位を維持するという持続性のデータと、いま89.3%の需要が未決着であるという2点の組み合わせにあります。決着してから参入しても、90.4%の壁を崩す側に回ることになる、という論理です。
※ここから先は記事本文には書かれていない、Scale Basics編集部による一般的な実務上の補足です。この調査は米国カテゴリを対象としたSemrushの推定データであり、日本語圏の状況を示すものではありません。そのうえで、自社が「未決着のカテゴリ」にいるかを手元で確認するなら、次の3点を測るのが最小構成になります。
まず、自社が既定の回答になるべきカテゴリを10から20に絞り、記事が挙げた5つの質問の型に沿った日本語プロンプトを固定文で用意します。次に、月次で同じ日に同じプロンプトを流し、回答に登場したブランド名を記録します。ここから「自社が5本中何本に登場したか」と「1位ブランドとの登場本数の差」が出ます。Indig氏の指標そのものは再現できませんが、5本中4本に出ているのか1本だけなのかという粗い区別でも、自社が争いのどの段階にいるかは見えてきます。生成AIの回答は同じプロンプトでも揺れるため、1回の結果では判断せず複数回・複数月の記録を前提にしてください。
3点目として、回答の出典リンクに自社ドメインが含まれていたか(引用)と、回答本文に自社ブランド名が書かれていたか(言及)は必ず別のカラムで記録します。相関-0.229という数字が示すのは、この2つを1つの指標にまとめると実態が見えなくなる、ということだからです。
所感
ここからは記事本文にはない、Scale Basics編集部の見解です。今回の調査で価値があるのは「89%」という数字そのものよりも、オーナーシップを定義可能な形に落とし込んだ点だと考えます。5本中4本に登場し、2位を5ポイント以上引き離す。この定義があるからこそ、90.4%という防衛率も、1.3ポイント対2.9ポイントという交代の境目も意味を持ちます。逆に言えば、定義の異なるツールの数字と今回の数字を並べて比較することはできません。
日本のSEO担当者にとっての注意点も明確です。対象は米国1,094カテゴリ、モデルはChatGPT、需要はSemrushの推定値です。日本語のクエリでは指名されるブランドの顔ぶれも参照される情報源も異なる可能性が高く、「日本でも89%が空いている」と読み替えることはできません。ただし「高需要カテゴリほど決着していない」という構造自体は日本語圏でも当てはまる可能性があり、確認するコストは低いので、まず測ってみる価値のある仮説だと考えています。
最も行動を変えるべきだと感じたのは引用と言及の切り分けです。国内でもAI検索の成果報告は「引用された回数」に寄りがちですが、最も引用されたドメインと最も言及されたブランドの一致が20.8%だけというのは、レポートの設計そのものを問い直す数字です。引用が増えているのに指名検索も問い合わせも動かないなら、ドアの前で足踏みしている可能性があります。比較ページ、導入実績、第三者メディアでの言及といった「名前を呼ばせるための資産」へ配分を移す判断は、この数字を根拠に社内で説明できます。記事が「次の数四半期」と書いている以上、まずは10カテゴリ・5プロンプト・月1回で計測を始めることを推奨します。記録しはじめない限り、決着したことにすら気づけません。
まとめ
・Search Engine Journalが2026年7月29日、Greg Jarboe氏(SEO-PR社長・共同創業者)の寄稿としてKevin Indig氏の分析を紹介した。データはSemrush提供の2026年1月から6月までのChatGPT回答で、米国1,094カテゴリ、1カテゴリ5本のプロンプト、5万超のブランド、60万件超の引用が対象
・「明確なオーナー」は5本中4本以上のプロンプトに登場し2位を5パーセントポイント以上引き離すブランドと定義され、2026年6月時点で条件を満たすカテゴリは15.2%、複数の競合が並ぶオープンフィールドは53.7%だった
・1,094カテゴリを推定AI検索ボリュームで2分割すると、上位半分がサンプル内需要の98%を占める一方でオーナー率は11.3%(下位半分は19%)にとどまり、推定AI検索需要の89.3%が明確なオーナー不在のカテゴリにあるという結論になった
・明確なオーナーは前月比比較の90.4%で首位を維持したが、交代が起きたカテゴリの直前リードは中央値1.3ポイント、維持したカテゴリは2.9ポイントで、薄いリードは守れていない
・引用とブランド言及の相関は-0.229で、最多引用ドメインと最多言及ブランドの一致は20.8%。引用を増やすことと既定の回答で名指しされることは別の課題だと示された
よくある質問
Q1: 見出しの「89%」は、何を母数にした何の割合ですか?
カテゴリ数の割合ではなく、推定AI検索需要の割合です。記事によれば、Kevin Indig氏は1,094カテゴリを推定AI検索ボリュームで並べ替えて均等な2グループに分割しました。上位半分だけでサンプル内の全AI検索需要の98%を占め、その上位半分のオーナー率は11.3%(下位半分は19%)でした。これを積み上げた結果が、推定AI検索需要の89.3%が明確なオーナーのいないカテゴリの中にある、という数字です。カテゴリ数で見た場合、2026年6月時点で明確なオーナーがいたのは15.2%です。
Q2: 「明確なオーナー」はどのように定義されているのですか?
記事の定義では、1つのブランドが5本のテストプロンプトのうち少なくとも4本に登場し、かつ2位のブランドを5パーセントポイント以上引き離している場合に、そのカテゴリには明確なオーナーがいるとされます。少なくとも3本で首位に立っているもののその差に届かない場合は新興リーダー、どのブランドも5本中3本で首位を取れていない場合が未決着で、2026年6月時点では53.7%がこの状態にあったと報じられています。なお5本のプロンプトは、定義を尋ねる質問、比較、代替候補のリスト、ユースケース、購買に関する質問の5タイプです。
Q3: 日本のSEO担当者は、自社でこの状況をどう確認すればよいですか?
記事は米国1,094カテゴリを対象としたSemrushの推定データを扱っており、日本語圏の状況や具体的な確認手順は書かれていないため、以下はScale Basics編集部による一般的な実務上の補足です。まず自社が既定の回答になるべきカテゴリを10から20に絞り、記事が挙げた5つの質問の型に沿った日本語プロンプトを固定文で用意します。次に月次で同じプロンプトを流し、回答に登場したブランド名と出典リンクを記録します。このとき、回答本文に自社名が書かれたか(言及)と出典に自社ドメインが含まれたか(引用)は必ず別項目として記録してください。記事が示す相関は-0.229で、両者は同じものではありません。生成AIの回答は同じプロンプトでも揺れるため、1回の結果で判断せず複数回・複数月の記録を前提にし、ツール上の数値と自社の実際の順位や流入は別物として扱う必要があります。
出典:89% Of AI Search Demand Has No Clear Owner: Use This Before The Window Closes(Search Engine Journal、Greg Jarboe氏、2026年7月29日)https://www.searchenginejournal.com/89-of-ai-search-demand-has-no-clear-owner-use-this-before-the-window-closes/583255/