何が起きたのか
アバナッシュ・カウシック氏は、Googleに約16年在籍した後、IntuitやDirecTVなどでクライアント側の上級職を歴任し、現在はHuman Made Machineのチーフ・ストラテジー・オフィサーとしてブランドや代理店にアドバイスを行っている人物です。同氏のニュースレター「Marketing <> Analytics Intersect」最新号「Pay Less, Grow More, Agencies in an AI-Era」で、マーケティング担当者に対し、代理店契約を今月中にも再交渉し、既存の業務範囲について25%〜75%のコスト削減を見込むべきだと主張しています。同時に、旧契約が想定していなかった新規業務については15%〜25%の増額もあり得るとしており、単純な「値下げ要求」ではなく、報酬を払う対象を組み替える提案だとしています。同氏の議論はパフォーマンス系・クリエイティブ系代理店を主な例としていますが、メディア、ブランド、計測、そしてSEOを含むあらゆる種類の代理店に当てはまるとされています。
旧来の契約が通用しなくなる領域と、Kaushik氏が提案する新しい報酬構造
カウシック氏はこの変化の背景として、(1)AIが特定タスクだけでなく汎用的に高度化したこと、(2)広告プラットフォーム自身が基盤となるAIモデルを保有しており、代理店が日常的に使うツールに既にAIが組み込まれていること、(3)スタック上のあらゆるシステムがリアルタイムで連携し、AIが「あなたのアカウント固有の事情」に精通するようになったこと、という3つの要因が同時に重なったと説明しています。
旧来のコスト配分と、AIによる置き換えが進むとされる領域
| 旧契約での業務クラスター | 従来のコスト配分(同氏推定) | AIによる縮小余地(同氏推定) |
|---|---|---|
| アカウント設計・キーワード/オーディエンス構成・キャンペーン構築 | 契約費用の約5分の1(約20%) | 約80%縮小 |
| 手動での入札・ペーシング調整 | (比率の言及なし) | 2024年後半以降、AIが人間のペーシング判断を上回っているとされる |
| 週次レポート・週2回の定例報告・手作業のコメント作成 | 契約費用の約3分の1 | 約60%縮小 |
特に入札・ペーシングの調整については、AIの学習サイクル中に代理店が下振れを「救済」しようと手動介入することが、実はアルゴリズムの学習を妨げ、そのたびに学習がリセットされてしまうと指摘している点が特徴的です。
新しい契約構造:基本契約・プロジェクト費・成果報酬の3分割
カウシック氏は、縮小した契約総額を次の3つに再配分することを提案しています。
| 報酬区分 | 配分(同氏提案) | 対象業務 |
|---|---|---|
| 基本契約(ベースリテイナー) | 40%〜50% | ガバナンス、方向づけ、データエンジニアリング |
| プロジェクト費 | 30%〜40% | クリエイティブ発想、複雑な戦略分析、ポートフォリオ戦略など、人間の判断が必要な業務 |
| 成果報酬(アウトカムインセンティブ) | 15%〜25% | 増分利益や検証済みの収益向上に連動(ROASなどプラットフォームが報告する指標には連動させない) |
成果報酬をROASのようなプラットフォーム側が報告する指標に連動させない、としている点も重要です。プラットフォームには自らその指標を過大に見せるインセンティブがある、というのがカウシック氏の主張です。
SEO・コンテンツ担当者はどう捉えるか
今回の話はあくまで「代理店への報酬をどの業務に対して払うか」という契約構造の議論であり、検索順位そのものが上がる・下がるという話ではありません。この点は混同しないよう注意が必要です。カウシック氏自身も、キーワードリサーチの単純作業や手動での順位トラッキング、定型的なテクニカル監査といった業務は「AIクローラーやGA4の異常検知、自動化されたテクニカルモニタリングによって既にプラットフォーム側でカバーされている領域」に分類できるとしています。一方で、エンティティ構築やAI ModeおよびAI Overviews向けのコンテンツ設計、GEO戦略のような「戦略的判断」を伴う業務は、引き続き人間の付加価値が大きい領域として残るとしています。国内のSEO・コンテンツ担当者としては、まず自社の代理店SOW(作業範囲定義書)の各項目を、この3分類(プラットフォームが既に代替/人間の判断が必要/成果連動)に当てはめて棚卸しすることが、契約見直しの第一歩になりそうです。
所感
Scale Basics編集部としては、AIツールの進化により定型的な運用業務の一部が省力化されているという方向性自体には一定の説得力があると考えます。特に、定例レポート作成や手動での入札調整のように「人間が介在すること自体が価値を生みにくくなった」業務を洗い出す発想は、契約を見直す上で有用な視点です。一方で、25%〜75%という削減幅はカウシック氏個人の推定モデルに基づくものであり、実際の削減率は代理店の体制やAIツールの導入状況、クライアントごとの業務内容によって大きく異なるはずです。すべての代理店・すべての契約にこの数値をそのまま当てはめて値下げ交渉の材料にするのは早計で、まずは自社のSOWの実態を照らし合わせることが先決だと考えます。また、成果報酬をプラットフォーム指標ではなく実際の収益指標に連動させるべきだという主張は、GEOやAI検索時代の評価指標のあり方を考える上でも参考になる論点だと感じます。
まとめ
・元Google出身のアバナッシュ・カウシック氏が、AI活用の進展を理由に代理店契約の再交渉を提言(Search Engine Journal、2026年7月17日)
・既存業務は25%〜75%の減額、新規業務は15%〜25%の増額が妥当との具体的な水準を提示
・報酬体系を「基本契約(40〜50%)」「プロジェクト費(30〜40%)」「成果報酬(15〜25%)」の3分割に再設計することを提案
・あくまで契約・報酬構造の話であり、検索順位への影響を示すものではない点に注意
よくある質問
Q1: アバナッシュ・カウシック氏とはどのような人物ですか?
Googleに約16年在籍した後、IntuitやDirecTVなどでクライアント側の上級職を務め、現在はHuman Made Machineのチーフストラテジーオフィサーとしてブランドおよび代理店にアドバイスを行っている人物です。
Q2: なぜ「25〜75%の削減」が可能だとされているのですか?
カウシック氏は、AIが特定タスクに限らず汎用的に高度化したこと、広告プラットフォーム自身が基盤AIモデルを保有していること、システム間の連携がリアルタイム化したことの3つが重なり、アカウント設計・キャンペーン構築(従来コストの約20%が約80%縮小)、手動での入札・ペーシング調整、レポーティング業務(従来コストの約3分の1が約60%縮小)など、従来は人手で行っていた業務の多くをプラットフォーム側のAIが代替できるようになったためだと説明しています。
Q3: 新しく提案されている契約構造はどのようなものですか?
縮小した契約総額を、ガバナンスやデータエンジニアリングを担う「基本契約(40〜50%)」、クリエイティブ発想や戦略分析など人間の判断を要する「プロジェクト費(30〜40%)」、増分利益や検証済みの収益向上に連動する「成果報酬(15〜25%)」の3つに再配分する構造です。成果報酬はROASなどプラットフォームが報告する指標ではなく、実際の収益に連動させるべきだとされています。
出典:Avinash Kaushik Says Renegotiate Now – SEO Fees 25% To 75% Lower(Search Engine Journal、2026年7月17日)https://www.searchenginejournal.com/avinash-kaushik-says-renegotiate-now-seo-fees-25-to-75-lower/581891/