何が起きたか:GoogleのDMCA主張が連邦地裁で却下された
Search Engine Journalの論考によると、7月20日、カリフォルニア州の連邦地裁の首席判事(Chief Judge)であるYvonne Gonzalez Rogers氏が、GoogleがSerpApiに対して起こしていたDMCAに基づく主張を退けました。SerpApiについて記事は、「Googleの検索結果をスクレイピングし、APIを通じて再販することを事業のすべてとしている企業であり、その再販先はますますAI企業になりつつある(“a company whose whole business is scraping Google’s search results and reselling them through an API, more and more of it to AI companies”)」と説明しています。
記事の副題は、この判断の要点を「判事はGoogleのDMCA主張をSerpApiに対して退け、広告収益を守るボット対策の壁は著作権保護ではないと判断した。あなたのサイトも同じものの上に乗っている」とまとめています。なお記事は、この判断が訴訟全体の終結を意味するとは述べておらず、後述するとおりGoogleには限定的な形で主張をやり直す余地が残されたとしています。
詳細①:争点となった「SearchGuard」と、判事の理由づけ
Googleの主張の中心にあったのは、SerpApiが同社のボット対策システム「SearchGuard」を回避したことが違法にあたる、というものでした。記事はSearchGuardについて、「自動化されたトラフィックを検知し、検索結果をスクレイピングされないよう止めるためにGoogleが内部で使っている仕組みであり、Googleの検索結果というドアに立つ用心棒だ(“It is the internal machinery Google uses to spot automated traffic and stop it from scraping search results, the bouncer on the door of Google’s results.”)」と説明しています。そのうえでGoogleは、この用心棒を出し抜くことがDMCAの下での違法な回避にあたると主張していました。記事はこのDMCAという法律について、「DVDのコピープロテクトを破ることを違法としているのと同じ法律だ」と補足しています。
判事はこれを認めませんでした。記事はその理由づけを、「SearchGuardが守っているのはGoogleの広告収益であって著作物ではない。そしてDMCAの回避禁止は著作権に関するものだ。ビジネスモデルの周りに築いた壁は、著作物ファイルにかけられた鍵ではない(“SearchGuard protects Google’s ad revenue, not a copyrighted work, and DMCA anti-circumvention is about copyright. A wall around your business model is not a lock on a copyrighted file.”)」と紹介しています。さらに、「判事は著作物が関わっていない範囲についてはprejudice付き(再提訴を許さない形)で主張を退け、ナレッジパネルの画像に関する狭い形での主張については21日間の猶予をGoogleに与えた(“She threw the claim out with prejudice wherever no copyrighted content was involved, and gave Google 21 days to come back with a narrow version about Knowledge Panel images.”)」としています。
詳細②:「ここに善玉はいない」――筆者が置いた立ち位置
この論考が特徴的なのは、SerpApi側に立つ理由を「SerpApiが正義だから」ではないと最初に断っている点です。筆者のSlobodan Manic氏は冒頭で、「自分でも書くとは思わなかった一文がある。私は、AI企業にデータを再販する検索スクレイパーの側に立っている。SerpApiが善玉だからではない。ここに善玉はいない(“There is no good guy here.”)」と書き、判断の根底にある原則の方を支持するとしています。その原則とは、「オープンウェブ上にあるものは、機械が読むことを許される。そしてそれはGoogleを読む機械も含まなければならない(“If it is on the open web, a machine is allowed to read it. And that has to include the machine reading Google.”)」というものです。
記事は両当事者をいずれも突き放しています。SerpApiについては「産業規模でスクレイピングして結果を再販しており、その多くが、誰もが不安を感じているまさにそのAI企業に流れ込んでいる。だから同情を寄せられるような当事者ではない」とし、Googleについても「オープンウェブをクロールすることで自らを築き上げた1兆ドル企業が、今度は他者がクロールするのを著作権法で止めさせたいと望んでいる。これも同情できる立場ではない」と述べています。記事はこの構図を、「これはウェブを誰が包装する権利を持つかを巡る2人の重量級の殴り合いであり、残りの我々は安い席から眺めている」と表現しました。
加えて記事は、「オープンウェブは人々によって、人々のためにあるはずだった(“the open web was supposed to be by the people and for the people”)」としたうえで、「この争いを見て、その中に人を探してみてほしい」と書き、スクレイピングの対象となるページや検索を生み出している当のユーザーが、どの当事者にもなっていないと指摘しています。
背景:これは「エージェンティックウェブ」の入口の問題
記事は、今回の争点を単発のスクレイピング紛争として片づけるべきではないとしています。「『自動化された訪問者は、どのような条件で公開ウェブコンテンツに立ち入ることを許されるのか?』というのは、エージェンティックウェブ(agentic web:AIエージェントが人に代わって動くウェブ)の根本的な問いであって、ニッチなスクレイピングの小競り合いではない(“‘On what terms is an automated visitor allowed onto public web content?’ is the founding question of the agentic web, not some niche scraping spat”)」というのが記事の立場です。
そのうえで記事は、法の目から見れば次のものはすべて同じ一つのものだと整理します。「結果を再販するスクレイパー、あなたを引用するためにページを読む回答エンジン、誰かの代わりに買い物をしに現れるショッピングエージェント、競合とあなたを比較するために仕様を引き出すアシスタント。法の目から見れば、これらは一つのもの、すなわち公開コンテンツ上の自動化された訪問者だ(“In the eyes of the law, those are one thing: an automated visitor on public content.”)」。そして「SerpApiは見栄えの悪い初期のテストケースであり、裁判所がその周りに引く境界線は、それらすべての境界線になる」としています。
記事はまた、これが将来の話ではないことも強調しています。「あなたのサイトに来ているトラフィックのうち、無視できないそして増え続けている割合が、すでに人間ではない(“A real and growing share of what hits your website already is not human.”)」とし、こうした訪問者に対してサイト側がどこまで発言権を持てるのかという条件が、当事者になれない訴訟の中で今まさに一件ずつ書かれつつあると述べています。
実務への影響:SEO・PPC・GEO運用のどこに効くか
記事が読者に突きつけているのは、サイト運営者が同時に二つの立場を抱えている、という点です。一つは「人々」の側で、「あなたのコンテンツはスクレイピングされ、再販され、モデルに流し込まれているが、誰も同意書を送ってこなかった」立場。もう一つは「小さなGoogle」の側で、「誰が、どのような条件で自分のコンテンツを持っていくのかについて発言権が欲しいし、できれば対価も欲しい」立場です。記事は「この判断はそのための手段を削る。なぜならこの先例はGoogle固有の話ではまったくないからだ」とし、「著作物ではなく収益を守るボット対策の壁こそ、ほとんどのウェブサイトが実際に運用しているものであり、裁判所は、その種の壁ではDMCAの保護は買えないと述べた(“An anti-bot wall that guards your revenue instead of a copyrighted work is what most websites are running, and the court said that kind of wall does not buy you DMCA protection.”)」と説明しています。
記事はさらに、Amazon対Perplexityの訴訟を「同じ最前線を反対側から試しているもの」として挙げています。そちらはCFAA(Computer Fraud and Abuse Act:コンピュータ詐欺・不正利用防止法)に基づき、「AIエージェントがあなたのウェブサイト上で動作するとき、それは許可された訪問者にあたるのか」を問うものだとされます。今回のケースはDMCAに基づき、「あなたのボット対策の壁は著作権保護にあたるのか」を問うもので、「異なる法律だが、その下にある問いは同じであり、機械を締め出すための道具立ては、それを当てにしていた人たちが期待したよりも短いままだ」と記事は述べています。
では何をすべきか。記事の提案は具体的なチェックリストではなく判断の持ち方です。「発見のためにオープンウェブをむさぼり――これまで見つけられ、引用され、順位がついたトラフィックの一片残らず――そのうえで、同じ開かれ方によって気に入らない機械にまで読まれることに目をむく、というのは通らない。ウェブは一つであって二つではない(“It is one web, not two.”)」としたうえで、「何を開き、何を閉じるかを、クローラーごとに、意図をもって、ホストやCDNがすでに提供しているAIクローラー制御を使って自分で決めること。『ブロックする』の足元にある法的な地盤はまだ動いており、持ちこたえないかもしれないと知ったうえで決めること」と促しています。記事は続けて、「その判断を、あなたが当事者ではない争いを裁いている裁判所に外注してはいけないし、あなたが一度も読まなかった初期設定を切り替えたプラグインに外注してもいけない」と書いています。
所感
ここからは記事本文にはない、Scale Basics編集部の見解です。まず押さえておきたいのは、今回の判断が対象としたのは米国のDMCAという法律の解釈であり、日本の法制度や個々のサービス利用規約に直接そのまま当てはまるものではない、という点です。記事も、SerpApiの行為が全面的に適法だと裁判所が認めた、とは書いていません。争われたのは「ボット対策の壁を回避したことがDMCAの回避禁止条項に触れるか」という論点であり、そこが否定されたということです。
そのうえで日本の実務者にとって示唆的なのは、SERP(検索結果ページ)のスクレイピングという行為が、SEO業界のインフラそのものと地続きだという事実です。記事がSerpApiについて述べているのは「Googleの検索結果をスクレイピングしてAPIで再販することを事業のすべてとしている」という点までで、記事自体は順位計測ツールやSEOツール一般には言及していません。しかし編集部としては、日本の事業会社や代理店が日常的に使っている順位チェックツール、SERP分析ツール、AI検索の露出計測ツールの多くが、同種のデータ供給網の上に成り立っていることは指摘しておく価値があると考えます。今回の判断は少なくとも、そうしたデータ取得を著作権法の枠組みだけで止めるのは難しい、という方向を示したものと読めます。もっとも、法的リスクの所在は利用規約や各国法によっても変わるため、ツール選定にあたっては「データの取得元をベンダーが説明できるか」を確認しておくのが穏当でしょう。
もう一つ、日本ではインハウス担当者と代理店の分業が進んでいるぶん、「AIクローラーを通すのか止めるのか」の判断が誰の仕事なのか宙に浮きがちです。robots.txtやCDNのボット制御は情報システム部門やインフラ担当が触り、コンテンツの露出を追うのはマーケティング部門や代理店、という分かれ方をしている組織は少なくありません。記事が「プラグインが勝手に切り替えた初期設定に外注するな」と書いているのは、まさにこの空白地帯の話です。自社サイトについて、AI関連クローラーを現在どう扱っているのか、それを誰が決めたのかを、一度棚卸ししておくことをおすすめします。記事の締めくくりは「オープンウェブのために戦うか、そう言うのをやめるかだ。どちらを選ぶにせよ、実際に選べ(“Fight for the open web or stop pretending. Whichever you pick, actually pick it.”)」という一文で、態度を決めること自体が唯一自分の手にある一手だとしています。
まとめ
・7月20日、カリフォルニア州連邦地裁の首席判事Yvonne Gonzalez Rogers氏が、GoogleがSerpApiに対して主張していたDMCAに基づく請求を却下したとSearch Engine Journalが報じた
・判断の理由は、Googleのボット対策システム「SearchGuard」が守っているのは広告収益であって著作物ではなく、DMCAの回避禁止は著作権に関する規定だから、というもの
・著作物が関わらない範囲についてはprejudice付きで却下され、ナレッジパネルの画像に関する狭い主張については21日間の猶予がGoogleに与えられた
・記事は、収益を守るボット対策の壁は多くのサイトが運用しているものであり、この先例はGoogle固有の話ではないと指摘している
・「自動化された訪問者はどのような条件で公開コンテンツに入れるのか」はエージェンティックウェブの根本的な問いであり、記事はCFAAを争点とするAmazon対Perplexity訴訟を同じ問題の裏返しとして挙げている
・記事の結論は、ホストやCDNが提供するAIクローラー制御を使い、何を開き何を閉じるかをクローラー単位で自分で決めよ、というもの
よくある質問
Q1: 今回の判断でGoogleとSerpApiの訴訟は終わったのですか?
記事はそこまでは述べていません。報じられているのは、GoogleのDMCA(デジタルミレニアム著作権法)に基づく回避禁止の主張が7月20日に却下されたという点です。記事によれば、著作物が関わっていない範囲についてはprejudice付き(再提訴を許さない形)で退けられた一方、ナレッジパネルの画像に関する狭い形での主張については、Googleに21日間の猶予が与えられたとされています。
Q2: なぜGoogleのボット対策システムはDMCAで守られなかったのですか?
記事が紹介する判事の理由づけは、Googleのボット対策システム「SearchGuard」が守っているのは同社の広告収益であって著作物ではなく、DMCAの回避禁止条項は著作権に関する規定である、というものです。記事はこれを「ビジネスモデルの周りに築いた壁は、著作物ファイルにかけられた鍵ではない」と要約しています。記事はさらに、著作物ではなく収益を守るボット対策の壁こそ多くのウェブサイトが実際に運用しているものであり、その種の壁ではDMCAの保護は得られないと裁判所が述べた点を、サイト運営者にとっての含意として挙げています。
Q3: サイト運営者は今回の件を受けて何をすべきですか?
記事は個別のチェックリストではなく判断の持ち方を示しています。何を開き何を閉じるかを、クローラーごとに意図をもって、ホストやCDNがすでに提供しているAIクローラー制御を使って自分で決めること、そして「ブロックする」ことの法的な地盤はまだ動いており持ちこたえないかもしれないと理解したうえで決めること、としています。あわせて記事は、その判断を当事者になれない裁判の結果や、初期設定を勝手に切り替えたプラグインに外注してはならないと述べています。
出典:Google Lost Its Scraping Case – Now You Have To Pick A Side On The Open Web(Search Engine Journal、Slobodan Manic氏、2026年7月公開)https://www.searchenginejournal.com/google-lost-its-scraping-case-now-you-have-to-pick-a-side-on-the-open-web/583066/