何が起きたか:「AIにおける可視性」を収益源として確立する考え方をSEO専門家が提言
Search Engine Journalに掲載された寄稿記事で、Harry Clarkson-Bennett氏は、出版社がAI検索・生成AIサービスにおける自社ブランドの「可視性(visibility)」を、明確な収益源として確立すべきだと提言しています。背景にあるのは、AI企業がニュースコンテンツを学習・引用に利用する一方で、出版社側への対価がほとんど支払われていないといういびつな価値交換の構造です。記事は、こうした状況の是正を待つだけでなく、出版社自身が「自社がどの分野でどれだけの影響力を持つか」を客観的なデータで証明し、それを新たな商品として売り込むべきだと主張しています。
詳細:Similarwebの調査データが示す「AI経由の来訪者」の価値
記事はSimilarwebによる調査「The Impact of Downstream Visibility」を引用し、生成AI(LLM)上でブランドに接触したユーザーは、その後7日以内に当該ブランドのウェブサイトを訪問する確率が2.5倍になると紹介しています。また、こうしたユーザーは従来型のユーザーと比べてエンゲージメント(engagement)が2倍高いともしています。カスタマージャーニーの初期段階ではAIが主要な情報源となる一方、購買に近づくにつれて検索とAIの比重はほぼ拮抗し、AIの影響を受けたトラフィックのうち55.9%は最終的に検索経由でサイトに到達するとされています。
記事が紹介する別のSimilarweb調査によれば、生成AIアプリの世界全体でのダウンロード数はこの12カ月間で27億件(前年比134%増)、月間ウェブサイト訪問数は約100億件(同70%増)に達したとされています。あわせて示されている主な数値は次のとおりです。検索の成長率は前年比2%。米国の検索のうちAI Overviewsが表示される割合は40%未満。AIでの言及後にサイトを訪問する確率は2.5倍。Z世代(18〜24歳)がAIチャットボット利用者に占める割合は2024年比で6%減少。生成AI利用者の50%は18〜34歳。Claudeのユニークビジター数は上半期対比で下半期に約180%増加。LLM経由で訪れたユーザーのエンゲージメントは従来型ユーザーの2倍。記事はさらに、生成AI利用者の年齢層プロファイルはYouTubeとほぼ同じか、それよりもやや若い層に偏っており、YouTubeの18〜34歳の視聴者シェアは49.1%だと付け加えています。
背景:出版社とAI企業の対立、そしてボットブロックの実態
記事はまず現状として、Vince Nero氏の調査を引用し、主要ニュースサイトの79%がrobots.txtでAI学習用ボットをブロックしていると紹介しています。一方で、AIクローラーを一切ブロックしていないサイトは18%にとどまるともしています。あわせて、USA Today、ロイター(Reuters)、Politicoといった有力メディアがGoogleへのアクセスをブロックすると脅す動きや、Redditがgoogleとの AI関連契約から離脱を検討しているとされる状況を挙げ、出版社とAI企業の対立が複数の訴訟や警告という形で表面化していると説明しています。記事はこうした緊張の背景として、Googleが直近の四半期決算で過去最高の業績を記録したと報じられている点も指摘し、コンテンツを提供する側とそれを利用する側の間の価値交換がほとんど成立していない現状に強い問題意識を示しています。
出版社が握る「影響力」とその証明方法
記事は、多くの出版社がボットブロックに躍起になっている一方で、実際にはインターネット上で最も影響力のあるプラットフォームの一部であり続けていると指摘します。そのうえで、たとえば「英国市場(あるいはロンドン市場)のテクノロジー>テレビというジャンルで自社が最も影響力のあるブランドである」ということを客観的に証明できれば、その出版社は一夜にしてより価値の高い存在になり得ると述べ、これが確率的なデータであっても、営業・マーケティング部門にとって非常に価値の高い資料になるとしています。
一方で、LLMにおけるRedditの影響力は過大評価されている可能性があるとも指摘しています。Dan Petrovic氏の調査を引用し、Redditはデータセット全体の中で「最も棄却されるウェブサイト(the most rejected website in their entire dataset)」であり、他のどのサイトよりも高い頻度でフィルタリングによって除外されていると紹介しています。ファンアウト(fan-out)処理における選択候補には常に挙がるものの、実際に使用される頻度は他サイトに比べて低いとされています。
収益化の具体策:記事が提案する4つのステップ
記事は、こうした影響力を裏付けるデータについて、現時点ではあくまで確率的なものにとどまると断ったうえで、プロンプト追跡(prompt tracking)にも限界があると認めています。記事が言及する調査(Rand)では、142件の回答を分析したところ、類似していると言えるプロンプトはほとんど見られなかったとされ、クエリの多様性が非常に高いことを示す結果だとしています。それでも、上位3ブランドの平均的な可視性は比較的高く、十分な規模と一貫したプロンプト設計を伴えば、売り物になる水準のデータは得られるとしています。
そのうえで、記事が提案する具体的な手順は次の4点です。1つ目は、自社のサーバーログを活用してLLM経由の「需要」を把握すること。2つ目は、自社サイトを商業的なトピック単位でレビューすること。3つ目は、関連する各トピックについてプロンプト追跡の仕組みを設定し、自社の市場での立ち位置を評価すること。4つ目は、そうして得た影響力のデータをもとに、マーケティング・営業向けの資料を作成することです。記事は、厳格なボットブロック方針を敷いている場合はこの一連の取り組みの妨げになるため、将来的にはサイトの一部区画のみブロックを解除することも検討材料になり得ると付け加えています。
注意点:安易なGEO施策・リスティクル量産のリスク
記事は同時に強い警告も発しています。すでに一部の出版社がこの市場からの収益化を急ごうとしているとしたうえで、リスティクル(listicle、まとめ記事)やプログラマティックSEOによる安易な手法でAI可視性を狙うことには強く注意を促しています。こうした手法をGEO専門家から勧められて実践した結果、検索順位が大きく毀損されたサイトは少なくないとしています。加えて、まとめ記事で競合ブランドに繰り返し言及することは、結果的に競合のマーケティングを代行してしまう行為になりかねないとも指摘しており、記事は「言及(mentions)は、現時点でおそらくリンク以上にウェブ上の通貨になっている」という見方を示しています。
この点に関連して、SEOアナリストのLily Ray氏の調査を引用し、「Googleの1月20日付アップデート(原文に年の明記なし)の影響を受けた70社以上をすでに特定しており、その多くが極めて類似したSEO/GEO主導のコンテンツ手法を用いていた」という趣旨のコメントを紹介しています。記事は、こうした画一的な手法による「足跡(footprint)」が大規模に検知されると、Googleは同じツール・手法を使う多数の企業をまとめて評価を下げやすくなると説明しており、AI可視性を狙った施策であっても、Googleの品質評価の対象から逃れられるわけではない点を強調しています。
所感
Scale Basics編集部としては、この記事が示す視点は「AI経由の流入は少ないから軽視してよい」という単純な整理を退け、可視性そのものを資産として扱うという発想に実務上の意味があると考えています。特に、サーバーログを見ればどのトピックでLLM経由の関心が生まれているかは既に確認可能であり、これは追加のツール導入なしに今日から着手できる点です。まずは自社サイトのアクセスログでAIクローラー・リファラーの傾向を洗い出し、商業的に重要なトピックごとに自社の露出状況を棚卸しすることを優先したいところです。
一方で、記事が明確に警告している通り、リスティクル量産やプログラマティックSEOでAI可視性そのものを「攻略」しようとする発想は、Googleのアップデートによる評価毀損という別のリスクを伴います。可視性を裏付けるデータ収集と、コンテンツの質を担保する通常のSEO/E-E-A-T対応は、切り離さずに両輪で進めるべきだというのが編集部の見解です。
まとめ
・Search Engine Journalの寄稿記事は、出版社がAI検索・生成AIにおける「可視性」を新たな収益源として確立すべきだと提言している
・Similarwebの調査では、AIでブランドに接触したユーザーはその後7日以内にサイトを訪問する確率が2.5倍、エンゲージメントも2倍になるとされている
・主要ニュースサイトの79%がAI学習用ボットをrobots.txtでブロックする一方、Redditはgoogleとの契約見直しを検討しているなど、出版社とAI企業の対立が表面化している
・記事が提案する収益化の具体策は、サーバーログ分析、トピック別のサイトレビュー、プロンプト追跡、マーケティング資料の作成という4ステップである
・Lily Ray氏の調査によれば、リスティクルやプログラマティックSEOでAI可視性を狙った70社以上がGoogleのアップデートで評価を下げられており、安易な手法には注意が必要である
よくある質問
Q1: この記事の一番のポイントは何ですか?
Search Engine Journalの寄稿記事は、出版社(メディア運営者)がAI検索・生成AIにおける自社の「可視性」を、単なるブランド指標ではなく明確な収益源として確立すべきだと提言しています。Similarwebの調査データをもとに、AI経由でブランドに接触したユーザーはその後サイトを訪問しやすくエンゲージメントも高いことを示し、この影響力を客観的なデータとして証明・販売する発想を提示しています。
Q2: 具体的にどのような収益化の手法が提案されていますか?
記事は4つの手順を挙げています。自社のサーバーログを分析してLLM経由の需要を把握すること、自社サイトを商業的なトピック単位でレビューすること、関連トピックごとにプロンプト追跡を設定して市場での立ち位置を評価すること、そして得られた影響力のデータをもとにマーケティング・営業資料を作成することです。
Q3: 注意すべきリスクはありますか?
あります。記事は、リスティクルやプログラマティックSEOといった安易な手法でAI可視性を狙うことに強く警告しています。SEOアナリストのLily Ray氏の調査では、Googleの1月20日付アップデートの影響を受けた70社以上が、類似したSEO/GEO主導のコンテンツ手法を用いていたことが確認されており、AI可視性狙いの施策であってもGoogleの品質評価の対象になり得る点に注意が必要です。
出典:How Publishers Can Monetize AI Visibility(Search Engine Journal、Harry Clarkson-Bennett氏)https://www.searchenginejournal.com/how-publishers-can-monetise-ai-visibility/583345/