何が明らかになったのか — 29小売・207商品ページの調査
Search Engine Journalによると、Moaiandin氏の調査チームはAhrefsでオーガニック流入順にランク付けした29の小売サイトを選び、それぞれの上位商品詳細ページ(PDP)を合計207件抽出しました。このうち52件はアクセスエラー、14件は誤認識ページ(意図した商品ページとして正しく認識されないページ)だったため除外され、実際に分析対象となったのは141件のPDPです。調査が測定したのは、これらのページがGoogleのUniversal Commerce Protocol(UCP)の要件を満たしているかどうかでした。
「見えない」を生む3つのスキーマフィールド
記事が指摘する「エージェント型商取引に不可視」とは、商品ページがUCPの求める重要なスキーマフィールドを欠いているために、AIエージェントが商品情報を正しく取得・比較できない状態を指します。調査では、特に欠落が目立つ3つのフィールドが挙げられています。
priceValidUntil(価格有効期限)
分析対象141件のうち、priceValidUntilを含んでいたのはわずか18%でした。価格がいつまで有効かをエージェントに伝えるフィールドで、欠落しているとエージェント側は価格の信頼性を判断できません。
shippingDetails.deliveryTime(配送日数)
配送にかかる日数を示すshippingDetails.deliveryTimeを含んでいたのは13%にとどまりました。配送情報はエージェントが購入を代行する際の比較材料の一つであり、欠落は選択肢から外れる要因になります。
hasMerchantReturnPolicy.merchantReturnDays(返品可能日数)
返品可能日数を示すhasMerchantReturnPolicy.merchantReturnDaysを含んでいたのはさらに少なく、11%でした。3フィールドのいずれも、大半のページで欠けている状態です。
GTIN欠如とボット遮断という追加の壁
記事はさらに2つの問題を挙げています。1つは、分析対象の65%がGTIN(Global Trade Item Number、国際的な商品識別コード)を欠いていることです。GTINがなければ、エージェントが小売間で同一商品の価格を比較すること自体が難しくなります。もう1つは、15%にあたる32ブランド(Adidas UK、UGG、Converseなどを含む)が、HTTP 403でボットアクセスを完全にブロックしていた点です。この場合、商品ページの内容がどれだけ整っていてもAIエージェントからは存在自体が見えません。
なぜこうしたことが起きるのか — フィードは「二次的インフラ」
記事によれば、priceValidUntil、shippingDetails.deliveryTime、hasMerchantReturnPolicy.merchantReturnDaysはいずれも、Schema.orgに2020年から2021年にかけて追加されたフィールドです。追加から数年が経っているにもかかわらず、多くの小売がテンプレートを更新していないことが、今回の欠落率の高さにつながっています。記事はこの背景について、商品フィードが売上に直結する本質的なシステムとしてではなく、二次的なインフラとして扱われてきたためだと分析しています。Moaiandin氏は、重要フィールドが欠けている商品について「Your product won’t be included. Period.(あなたの商品は含まれない。それだけのことだ)」と断言しています。
小売が今すぐすべきこと
記事が挙げる対応は次のとおりです。まず、商品フィードを重要インフラとして扱い直し、上位商品からUCP準拠の監査を行うこと。次に、在庫情報を時間・分単位で更新できる準リアルタイムの精度に引き上げること。さらに、Identity Linking(事業者情報の連携)を実装すること。そして、SEO・マーチャンダイジング・プラットフォーム開発といった部門を横断したオーナーシップ体制を整えることです。プロトコルの背景としては、OpenAIが2025年9月に発表したAgentic Commerce Protocol(ACP)、Googleが2026年1月にローンチしたUniversal Commerce Protocol(UCP)が並行して存在しており、いずれの基準を満たすかが商品の可視性を左右する状況になっています。
SEO・EC担当者はどう捉えるか
まず押さえておきたいのは、これは検索順位やクロール・インデックスの巧拙を測る話ではないという点です。記事が説明するとおり、エージェント型商取引は従来のSEOのようにサイト本文を読み解くのではなく、マーチャントフィードとページ上のスキーマから情報を取得します。つまり、コンテンツやリンクをどれだけ最適化していても、フィードとスキーマが整っていなければAIエージェントの検討対象には入りません。Target社のプレスリリースが「A guest starts a conversation in AI Mode or the Gemini app…They’d then see different options to consider and purchase without having to leave the chat.(利用者はAI ModeやGeminiアプリで会話を始める…そこから、チャットを離れることなく検討・購入できる選択肢が提示される)」と説明しているように、AI経由の購買導線はすでに実装が進んでいる領域です。EC・SEO担当者は、順位ではなく「フィード/スキーマの整備状況」を新たな計測・改善対象として位置づける必要があります。
所感
Scale Basics編集部としては、今回の調査で最も示唆的なのは「見えない」原因の大半が、真新しい技術的難題ではなく、2020〜2021年に追加された既存のスキーマフィールドを単に更新していなかったという点にあることだと捉えています。裏を返せば、対応の難易度自体は高くなく、優先順位づけと部門横断の合意形成の問題に近いということです。一方で、15%のブランドがボットを完全遮断していたという事実は、意図的な選択がそのままAIエージェントからの不可視につながるという、これまでとは異なる種類のトレードオフを突きつけています。オーガニック検索とAIエージェント経由の商取引とでは「見える」ための条件が異なる、という前提を持って商品データ運用を見直す段階に来ているといえるでしょう。
まとめ
・SALT.agency共同創業者Reza Moaiandin氏の調査で、上位小売29社・207商品ページ(分析対象141件)の多くがGoogleのUniversal Commerce Protocol(UCP)要件を満たしていないと判明
・priceValidUntil(18%のみ含有)、shippingDetails.deliveryTime(13%)、hasMerchantReturnPolicy.merchantReturnDays(11%)という3つの重要スキーマフィールドの欠落が主因。65%はGTINも欠如
・15%(Adidas UK、UGG、Converseなど32ブランド)はHTTP 403でボットアクセスを完全ブロックし、AIエージェントから不可視の状態
・対応の柱は、フィードを重要インフラとして扱う監査、在庫の準リアルタイム更新、Identity Linkingの実装、SEO・マーチャント・プラットフォーム部門の横断的オーナーシップ
よくある質問
Q1: 「エージェント型商取引に不可視」とはどういう意味ですか?
商品ページがGoogleのUniversal Commerce Protocol(UCP)が求めるスキーマフィールドを欠いているため、AIエージェントが商品情報を正しく取得・比較できず、購入検討の候補にすら入らない状態を指します。調査では特にpriceValidUntil、shippingDetails.deliveryTime、hasMerchantReturnPolicy.merchantReturnDaysの3フィールドの欠落が目立ちました。
Q2: なぜ多くの小売でこうした欠落が起きているのですか?
該当する3つのスキーマフィールドはSchema.orgに2020〜2021年に追加されたものですが、多くの小売がテンプレートを更新していないためです。記事は、商品フィードが売上に直結する本質的なシステムではなく、二次的なインフラとして扱われてきたことが背景にあると分析しています。
Q3: 小売はまず何から着手すべきですか?
記事が挙げる対応は、商品フィードを重要インフラとして扱い上位商品からUCP準拠を監査すること、在庫情報を時間・分単位の準リアルタイム精度に引き上げること、Identity Linkingを実装すること、SEO・マーチャンダイジング・プラットフォーム部門を横断したオーナーシップ体制を整えることの4点です。
出典:70% Of Top Retailers Are Invisible To Agentic Commerce. Here’s Why.(Search Engine Journal、2026年7月21日)https://www.searchenginejournal.com/70-of-top-retailers-are-invisible-to-agentic-commerce-heres-why/581198/